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同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善について

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はじめに

 政府が「働き方改革」の実現に向けての意見募集を行っていました。政府が意見を募集しているテーマの中に、「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善について」というのがあったので考えてみます。 

同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善について

 ずっと前から言われていることですね。先に結論を言います。現在の日本の雇用慣行を維持すれば、同一労働同一賃金の実現は無理です。政府が、非正規雇用の人にボーナスを支給しようとする動きがありますが、基本給を下げた分をボーナスの原資に充てるだけでしょう。総支給額としては何も変わりません。では、現状ではなぜ同一労働同一賃金が実現しないかを考えます。

春闘とは何か

 毎年、春先からマスコミで、「ベア」とか「ボーナス〇か月分」といった報道が交わされます。春闘(春季生活闘争)のことです。春闘とは、大企業を中心とする企業別労働組合が使用者と行う賃上げ主体の労使交渉のことです。春闘は1956年に始まったとされ、高度成長期初期のころから現在に至るまで半世紀以上の長い歴史を持っています。高度成長期では慢性的な人手不足でありストライキなどが横行していました。しかし、1990年代のバブル崩壊やグローバル経済の進展などがこの状況を一変させます。バブル崩壊以降人余り感が顕著となりストライキなどの労働争議が減る一方で、労働組合と使用者とで労使協調路線を採ることが多くなっていったのです。

ユニオンショップ制とは何か

 大企業では終身雇用が前提であるため、企業別労働組合が組織されます。また、企業別労働組合では、ユニオンショップ制という制度を採ることが多くあります。ユニオンショップ制とは、採用時に組合加入が義務付けられていて、もし組合から脱退すると使用者は当該労働者の解雇の義務を負うという制度です。平たく言うと、「採用時には絶対加入の必要があり、途中で脱退したら解雇される」という制度です。

 当初は組合の組織率を上げるために導入された制度ですが、使用者側との距離が近く(単一組合となってしまうため)、大企業では御用組合が多いと言われるのはこのためです。労働組合の幹部だった人が、経営者になる場合も少なからずあります。

 ところが、このユニオンショップ制の対象となっているのは、長期雇用を前提とした正社員だけです。すなわち、非正規社員は大企業の企業別労働組合の組合員にはなれないのです。

春闘の恩恵を享受できるのは誰なのか

 では、春闘による賃上げの恩恵を享受できるのは誰なのでしょうか。ずばり、正社員のみです。正社員のみ組合に加入できるのだから理由は明らかです。春闘で賃上げ交渉をするということは、いわばゼロサムゲームに参加しているのと同じです。つまり、誰かが得をすれば誰かが損をすることになり、損得を足し合わせたら0になります。春闘の恩恵を受ける正社員が賃上げを実現すればするほど、その分だけ非正社員の賃金が低下する仕組みになっているのです。

 労働基準法の改正や派遣労働の自由化によって2000年以降は非正規社員がどんどん増えていきました。このようにして、正規・非正規の賃金格差が鮮明になっていったのです。春闘では、賃上げのみならず、福利厚生面での労使交渉も行っていますから、福利厚生面でも正規・非正規で著しい開きがあります。

スピンコントロールに騙されないよう気を付けるべし

 最近、労働組合も「非正社員の待遇を改善すべき」などと言うようになってきました。しかし、これは正社員優先の春闘の仕組みを非正社員に知られないようにするためのスピンコントロールに過ぎません。現在政府は「働き方改革」と称し、「同一労働同一賃金」をはじめ非正規雇用の処遇改善に乗り出そうとしていますが、「企業別労働組合」・「春闘」といった高度成長期型の労使交渉がある限り実現しないのです。

 では、なぜこの事実が社会的に広く認知されないのでしょうか。報道内容の編集権を握っているのはマスコミの正社員だからです。非正規社員の方はこの重要な事実にいち早く気付いて欲しいものです。